散骨・墓地はどうなる?
  厚生省生活衛生局は、6月に「これからの墓地等の在り方を考える懇談会報告書」を
 発表した。戦後大きな社会変動がなされたことにより、葬送ののあり方も大きく変化し
 てきた。墓埋法(墓地、埋葬等に関する法律)はもはや時代に即応しない、という声が
 聞かれるようになって久しい。厚生省では昨年より「これからの墓地等の在り方を考
 える懇談会」を開催、これからの墓地行政を検討してきた。90年代に入り話題を集め
 た散骨の取扱も課題であった。報告書の全文を紹介すると共に、これに対する葬送の自
 由をすすめる会の
抗議文および今回の懇談会の委員である森謙二氏(茨城キリスト
 教大学教授)の回答を合わせて紹介する。

これからの墓地等の在り方を考える懇談会報告書

はじめに
   今年は、墓地、埋葬等に関する法律(以下「墓地埋葬法」という。)が戦後まも
  ない昭和23年に制定されてから50年となる。今日、我が国は戦後の混乱期、高
  度経済成長期を経て、世界の主要国としての地位を築いた。
   このような経済の発展は、同時に社会構造や家族の形態を大きく変貌させ、人々
  の生活様式や生活意識をも著しく変化させるものであった。
   墓地については、都市化の進展、核家族化の進行、高齢人口の増加、火葬率の上昇
  等の社会的要因や家意識の稀薄化、葬送の自由の主張等の国民意識の変化の影響を受
  けている。
   墓地は優れて人々の生活の営み即ち文化を反映するものであり、墓地行政は土地の
  習俗や人々の宗教的感情を尊重しつつ、社会情勢に即して展開されなければならない。
   50年の月日の経過は墓地行政の見直しを要求し、また、今後予想される少子高齢
  化の進行は、来るべき社会に適合した墓地等の在り方を求めている。
   本懇談会はこのような認識の下に、墓地を利用する者の視点に立って、これからの
  墓地等の在り方について検討を行い、現段階における見解を以下のようにまとめた。
  第1墓地を巡る現在の状況
  
一.総説
    今日の墓地埋葬等を取り巻く社会環境は、墓地埋葬法の制定当時に比べて、大きく
    変貌を遂げている。
   第一は火葬率の上昇である。昭和二五年当時において5割強にすぎなかった火葬率
  が平成八年には99%弱にまで上昇した。しかし、火葬率の上昇は火葬場の増加には
  つながらず、逆に昭和35年には約二万四千カ所の火葬場が平成七年には約八千五百
  カ所に減少している。つまり、火葬が増加する一方で火葬場の統廃合が進み、その近
  代化・整備が行われてきた。法制定当時においては、土葬や火葬場に対する公衆衛生
  の確保が重要な任務であった。しかし、公衆衛生の確保の重要性に変化はないものの、
  土葬の減少や火葬場の近代化・整備が進行した今日においては、公衆衛生の観点から
  の規制だけでなく、生活環境に配慮した墓地や火葬場の量的整備や質的な水準の向上
  等について、地方自治体が基本的な住民サービスの行政として積極的に取り組むこと
  が求められている。
   第二は、高度経済成長の下での急激な人口移動による都市の過密化・農村の過疎化
  と核家族化の進行、更には少子化の進展という社会環境の変化である。大都市では急
  激な人口の増加及び世帯数の増加によって墓地の需要が増大し、墓地需要に対する対
  応がこれまでの墓地行政の重要な課題となってきた。現在でも、地域的な偏差がある
  ものの、墓地不足の状況は解決されていない。
   また、急激な人口移動によって生じてくるのは、「墓地不足」だけではない。人口
  移動によって祭祀承継者のいない墳墓が増加し、その墳墓の改葬問題(いわゆる「無
  縁墳墓」)も社会問題となってきた。
   元来、死者の祭祀は私的な問題であり、国民の宗教的感情を尊重する意味からも承
  継者のいない墳墓の改葬については慎重な手続きが課せられている(墓地埋葬法施行
  規則第三条)しかし、承継者のいない墳墓の増加が墓地の管理及び経営を圧迫する要
  因になり、他方では改葬公告を二種以上の日刊新聞に三回以上公告することを義務づ
  けた改葬手続きの不合理性が指摘されるようになってきた。
   また、近年の子どもの減少、更に昭和四九年以降の人口置換水準を下回る合計特殊
  出生率の低下、少子化の進行とともに、墓地承継者の不在がより深刻になってきた。
  つまり墓地承継者の不在は、都市化や過疎化という人口移動の要因だけでなく、家族
  構造の変化に根ざした問題として広く認識されるようになってきた。
   このような段階における承継者のいない墳墓の改葬問題は、墓地経営の観点からだ
  けでなく、国民の宗教的平穏を確保するために、そこに葬られている人あるいはそこ
  に葬られるであろう墓地使用者の利益を守るという観点からも、その対応について考
  える必要があるだろう。具体的には、墓地使用の有期限化や多様な墓地の在り方につ
  いて検討が求められる。
   さらに、現在の人口構造から見ても、これから死亡者の数が増大し、祭祀承継者を
  確保することができない人々が増大するであろう。そうであるとすれば、行旅病人及
  行旅死亡人取扱法(明治三二年)、生活保護法(昭和二五年)老人福祉法(昭和三八
  年)等の規定による対応だけでなく、今後、これらの人々の必要に応じてより多様な
  葬送のサービスを提供するシステムの整備が必要である。
   第三は葬送に関する国民意識の変化である。高度経済成長期の墓地需要の増加の背
  景には死者のための墓地の確保のためだけではなく、将来「私」が入るための墓地の
  確保であったといわれている。「私」の死後を子孫に全面的に委ねるのでなく、自ら
  が「死後の住処(すみか)」を求めている傾向は以前から顕著に見られる現象であっ
  た。この傾向が今日ではより積極的に展開し、「私」の死後を私のいしによって決定
  したいという考え方(「葬送の自由」)が自己決定権の具体的表現として主張される
  ようになった。その表現形態は多様であるが、散骨という葬送の選択もその一つであ
  る。伝統的な慣習からの解放や価値観の多様化を背景とした「葬送の自由」の要求は
  尊重されるべきものであろう。しかし、葬送に関して法律が想定していない状況も生
  まれてきたからには、新しい時代の葬送に適合するような法の体系の整備が求められる。
  
2.墓地需要の増大
 「都市化の進展」
   戦後における経済成長は、産業化の進展の成果であり、産業化は労働力として多
  くの人々を地域社会から離脱させ、都市の住民とした。
   我が国の人口は、高度経済成長期以降、都市圏への人口の集中が進んだが、今後も
  都市圏の人口の増大が見込まれている。新たに都市住民となった人々の多くは、そこ
  を故郷とするようになり、自らの墓と死者を弔うための墓を求めるため、墓地需要は
  大きく伸びることになった。例えば、東京都の都立霊園の応募状況を見てみると、壁
  型墓地などを増設し、納骨堂を新設した後の平成五年以降は四倍程度の公募倍率であ
  るが、それ以前は10倍を大きく超える倍率であった。
   このため、意識調査においても、人口流入が顕著な都市部を中心に墓地の不足を指
  摘する数値が高い。すなわち、一二大都市においては、四割強の人が墓地は不足して
  いると認識しており、四人に一人が実際に自分自身が利用できる墓を持っていないと
  答えている。
  「高齢人口の増加」
   また、今後、高齢者数の絶対的増加が見込まれるが、このことは、死亡者数の増大
  を意味するものであり、墓地需要増大の要因として位置づけられる。死亡者数の推移
  は、平成八年に約九〇万人であったものが、最大時平成四八年の約一七五万人に達す
  まで増加し続ける見込みである。
  「供給の停滞」
   以上のような要因から、墓地需要は増大しているが、墓地は一般にいわゆる「迷惑
  施設」として受け止められることなどから、人の居住する地域の近隣では新たな立地
  が困難な場合が多く、供給も滞りがちになる傾向がある。
3.継承者のいない墓の増加
「家族像の変化」
   都市化の過程で、人口が流出し、過疎化した地域おいては、世帯数が減少し、ある
  いは跡継ぎ世帯が流出し、一部の地域においては墓地の無緑化が進んでいる。
   また、核家族世帯数は、昭和五〇年に一九三〇万世帯であったものが、平成八年に
  は二五八〇万世帯に増加するなど、核家族化の進展と家族規模の縮小がみられ、墓を
  守ることが期待される子どもの数が減少している。少子化の進行はこの傾向に拍車を
  かけるものとなっている。さらに、夫婦のみの世帯及び単独世帯の数は、それぞれ昭
  和六〇年に五二〇万世帯、七九〇万世帯であったものが、平成七年には七六〇万世帯、
  一一二〇万世帯に増加するなど世帯に子どもがいない人も増加の傾向にあり、これら
  の人も墓を求める場合が多いものと予想すれば、承継者のいない墓が増えていくこと
  が見込まれる。
   人々の意識においても、いわゆる家意識の後退とともに、「先祖の祭祀を祭ること
  は子孫の義務である」と考えることが若年層ほど徐々にであるが希薄化する傾向にあ
  る。
   これらのことは、将来において無縁化する墓の増加を示しており、承継者のいない
  墓の取扱は今後の墓地問題の一つの焦点となろう。
   なお、現在においても、無縁墳墓については、その改葬手続きが煩瑣で、かつ、実
  効性がないという強い批判があり、その改善が求められている。
   
4.事業型墓地の増加
  「墓地事業の展開」
   都市人口の増大とともに、都市に定住する人々が墓を購入するようになると、宗教
  を問わず一般公衆が利用可能な事業型墓地が出現するようになった。
   一ヘクタール以上の大規模墓地は、全国で、昭和六〇年に約九百カ所(厚生省:全
  国主要墓地経営実態調査)であったものが、平成九年には約一千四百カ所((社)全
  日本墓園協会:大規模墓地経営実態調査)に及んでいる。
   事業型墓地の経営主体は地方自治体以外は公益法人又は宗教法人に限定する行政方
  針が示されている。これは、墓地の永続性と非営利性の確保を図るためであるが、こ
  の趣旨を達成するためには、墓地事業を営む公益法人あるいは宗教法人においても安
  定的な財政運営が必要である。
   また、墓地の利用者は自分の死後においても適切な管理を望んでいるのであるから、
  墓地の経営、管理の方法について、利用者の期待権保護のための適切な対策が講ぜら
  れなければならない。さらに、墓地の経営者は、このような墓地の利用者の意思や期
  待に誠実にこたえるよう、高い職業倫理が求められている

抗議文
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